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著者コメント

ニッポン・ミニ・ストーリー

日本人に最も愛されたイギリス車

(小学館)

この本を書くことになった直接のキッカケは、1999年8月21から22日にかけてイギリスのシルバーストン・サーキットで大々的に行われた「Mini@40」というイベントを取材したことだった。
「Mini@40」は、当時のローバー・カーズが発売していたミニが生誕40周年を迎えたことを祝ったものだ。生誕40周年とはいっても、ミニはクラシックカーではない。
その時点でも、まだずっと生産と販売が続けられている現役の小型車だ。
ミニのことは知っていたし、もちろん日本で運転したことも何度もあった。
“クラシックな魅力を備えた傑作車”という評価にも、僕はおおむね同意していた。
しかし、技術革新の著しい現代において、クルマに限らず、40年間も同じ工業製品を作り続けるなんてことが、驚き以外の何ものでもない。
なぜ、ミニは(ミニだけは)、40年間も作り続けられたのだろうか?

シルバーストン・サーキットでは、新型ミニのプロトタイプの姿もチラッと一瞬だけ、披露された。それまでも、世界各地のモーターショーで、プロトタイプは公開されていたが、より生産型に近いものだ。
40年間、カタチを変えずに作り続けてきたオリジナル・ミニのイメージを巧みになぞっていた。

40年ぶりにモデルチェンジするのだから、もっと現代的なスタイルに生まれ変わっていなければならないはずなのに、新しいミニは時間の経 過を無視していた。
この点に、僕は疑問と取材のモチベーションを見出した。 

40年前に生まれた時には、革新的な技術をいくつも身にまとい、小型車の最前衛を張っていたのに、“二代目”と称する、このウスらデカい小型車はいったい何なのだ?
ミニの製造権をローバーから買い取った BMW は、オリジナルとそっくりな二代目を作ることに勝算を、どのように見い出し得たのか?
その答えを見付ける方法として選んだのが、日本にあるミニとミニユーザーを取材することだった。生産開始から25年目、つまり生産終了までの15年間は、イギリス人よりもはるかに多くの日本人がミニを買い、延命させていたからだ。
自動車メーカー、部品メーカー、レーシングドライバー、ミュージシャン、ファッションプロデューサー、ラリードライバー、ミニショップ経営者、並行輸入業者、ミニマニアなどをインタビューした。
それらの人々に彼らとミニと関わり合いを問い質すことによって、ミニの影響を浮き立たせ、ミニとは何か、また、この40年間の日本のモータリゼーションの変遷のひとつの側面を探ろうと試みた。

だから、この本は、ミニについて書いた本であると同時に、ミニというミラーボールに映り、反射する日本のクルマ社会について記したものでもあるのだ。

BMW の目論見通りに、新しいミニは世界中でヒットした。
クーパーやコンバーチブルを派生させた。2007年には、モデルチェンジまで行い、ワゴン版のクラブマンまで追加するまでになったほどだ。
オリジナルのミニを設計した、アレック・イシゴニスは、この状況を草葉の陰でどう思っているだろうか。

『ニッポン・ミニ・ストーリー』という書名は、ミニのバイブル的な存在である『ミニ・ストーリー』のアンサーソング的な意味合いから付けた。
『ミニ・ストーリー』は、設計者のイシゴニスと交流の深かったイギリス人自動車ジャーナリストのローレンス・ポメロイが著し、小林彰太郎氏が翻訳しているという、自動車趣味の本流中の本流によるものだ。
衣鉢を継ぐものではない。むしろ、小林氏訳の『ミニ・ストーリー』を読んだであろう人たちが、その後、自分のミニとどう付き合っていったのか?
そこを探って書いたのが、この本だ。
素っ気ないほどシンプルな装丁は、芦澤泰偉氏によるもの。
ミニの、シンプルでクラシックなところを反映していただいた。