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著者コメント

ユーラシア横断1万5000キロ

練馬ナンバーで目指した西の果て

(ニ玄社)

2003年夏に中古のトヨタ・カルディナワゴンを購入して東京からユーラシア大陸最西端の地ポルトガル・ロカ岬まで走っていった紀行文。帰国後に雑誌やWebサイトに書いた記事を書き直し、その3倍の450枚(400字詰)の原稿にまとめた。

同行のカメラマンであり世界的なアルピニストである田丸瑞穂さんの撮影による写真を多数収録してある。

旅を思い立った動機を第1章に以下のように書いている。「いつも飛行機で11~12時間でピュッと飛んでいってしまうヨーロッパに、自分の家の前からクルマで行ってみたくなった。飛行機でのヨーロッパ行きは、“途中”の過程がポッカリと抜け落ちているから、もし行けるのなら“途中”が体験できる。

ヨーロッパに行く度にいつも感じている、“世界とは何か?”、“ヨーロッパとは何か?”という抽象的だけど大きな疑問を解くヒントを得ることができるかもしれない。フェリーで日本海を渡るけれども、そこから地続きの先にある存在としてヨーロッパを捉えることができるのではないか。

ピュッと飛行機で飛んでしまっては、SF映画で見るワープ(瞬間移動)のようなものだ。ヨーロッパを、自分の日常と切り離されたもの(地理的には切り離されているのだけれど)としてではなく、“つながった先にあるもの”として見てみたかった。そのために、ユーラシア大陸をクルマで横断して行ってみるというのは、とても刺激的なプランである気がしたのだ。

職業的な動機もあった。自動車やモータースポーツなどについての記事を書く者として、自らの計画による超長距離自動車旅行は僕の中で“敢行すべきもの”になりつつあった。

自動車ライターや自動車評論家と呼ばれる者の主な仕事とは、新しく発売されたクルマに乗って、「速い、とか遅い」とか、「操縦性が良い、とか悪い」とか、各々の商品としての差異を見極め、“評価する”ことだ。その評価リポートを記事として書くことが、雑誌の編集者や読者から求められる。それに応えるのもひとつの役割ではあるが、一方で自動車に何ができるか試みることも必要なのはないか。

微分していくかのように、個々のクルマの違いを記事に書きながらも、一方では、積分するかのように「自動車とは何か?」、「自動車に何ができるのか?」を、つねに考えていた。

クルマに何ができるのかを測るのは、なにもサーキットを速く走ったり、荷室に積めるだけモノを積んだり、燃費を測ったりするだけではない。陸地が終わるところまで走り続けてみたりすることでも、少しは明らかにできるのではないだろうか。

そのために、「自分でできて、自分がしたいこと」が、ユーラシア大陸横断だった。クルマで、どこまで行けるのかを試してみたかった。「ここに陸が終わって、海が始まる」と詩人ルイス・デ・カモンエスに詠われた、ユーラシア大陸最西端の地、ポルトガル・ロカ岬まで、東京から自分のクルマで走っていきたい。飛行機の上からシベリアの原野を眺めてひらめいた時のように、実現できる可能性はゼロではないだろう。ゼロでないとしても、可能性を高めるためには情報と準備が必要となる。事前に日本で調べられた情報は、たくさんあったわけではなかった。」

改めて読むと肩に力の入り過ぎた文章だが、第2章以降はアクシデントとトラブルの連続である。命の危険や怪我がなかったのが不思議なくらいだ。“冒険”というには日常的だが、“旅行”と呼ぶには過酷な局面が多過ぎる。喜怒哀楽の連続する、少々ハードな珍道中だ。